横浜〈馬車道・関内〉の弁護士木下正信です。
有斐閣の法学教室2019年2月号を読みました。
1特集記事
今回の特集記事は『判例の基本』でした。
具体的には,
①判例とは何か
②民事判決の基礎知識――ルンバ―ル事件を素材にして
③刑事判決の基礎知識
④民事判例を読んでみよう
⑤刑事判例を読んでみよう
とりわけ,上智大学の三好幹夫教授の「①判例とは何か」という論文が勉強になりました。
「判例とは,結論命題のみをいうか,一般的法命題をも含むか」というのは,根本的な部分ではありますが,法体系の中での判例の位置付けや,先例性を検討するにあたり重要だと改めて思いました。
2時の問題 特殊詐欺事案で見えてきた解釈問題――2つの最高裁判例をてがかりに
京都大学の塩見淳教授による,刑法246条の詐欺罪にかかわる最決平成29年12月11日刑集71巻10号535頁と最判平成30年3月22日刑集72巻1号82頁(以下「平成30年判決」といいます。)という2つの最高裁判例を踏まえた新たな法律上の論点についての解説でした。
昨今,詐欺罪の適用範囲が広げられつつあり,実務家としては,刑法の持つ自由保障機能が損なわれるのではないかと危惧を持っているところです。
この点,平成30年判決では,殺人罪の実行の着手時期に関する最決平成16年3月22日刑集58巻3号187頁(いわゆる「クロロホルム事件」のことです。)を踏まえ,「本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において,被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手があったと認められる。」旨判示しました。
従来,一般的には,詐欺罪は,「人を欺いて財物を交付させる又は財産上の利益を得る」行為を捉えるものであり,その実行の着手時期は,手段である欺罔行為時であると解されてきました。
平成30年判決は,詐欺罪の実行の着手時期を欺罔行為よりも前の時点で認めたのです。
事例判断であるため,その後の判例の集積や学説の深化が待たれるところです。
※今月は,他にも,京都大学の潮見佳男教授の「学びなおし・民法総則 民法110条の『法意』・『類推適用』・『趣旨の類推適用』」や神戸大学の八田卓也教授の「既判力の時的限界」も大変勉強なりました。